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「40ミリ」に込めた社会人の使命感

=リコー卓球部に出現!「超新星」有延大夢=

2017年09月28日

社会・生活

研究員
倉浪 弘樹

 今、日本の卓球界が熱い!2016年リオデジャネイロ五輪では、エースの水谷隼が男子個人戦で日本人初の銅メダルを獲得。団体戦も男子が銀、女子が銅に輝いた。独デュッセルドルフで今年5~6月に開かれた世界卓球選手権大会でも、日本勢は5個のメダルを獲得し、「卓球王国」を世界にアピールした(敬称略)。

 こうした中、リコー卓球部にも期待の「超新星」が出現した。有延大夢(ありのぶ・たいむ)、その人である。水谷の母校で大学卓球界の名門、明治大学を今春卒業後、有延は入社早々その実力をまざまざと見せつけた。

 入社式からわずか五日後の4月8日、日本卓球リーグのトップ選手20名が参加する「ビッグトーナメント」に出場すると、有延はいきなり3位に入賞したのだ。強豪を次々に撃破する快挙に、リコー卓球部の関係者は度肝を抜かれた。

20170927_01.jpg(写真)筆者


有延大夢(ありのぶ・たいむ)

1994年生まれ、22歳。福岡県出身。学生卓球界の名門である野田学園中学・高校を経て、明治大学に進学。1年生で第10回全日本学生選抜選手権大会男子シングルス優勝。2017年4月リコー入社、卓球部所属。


 卓球部監督の工藤一寛は有延の非凡な才能に舌を巻く。「相手の心理を読むのがうまい。表情をよく見て、相手が嫌がるコースに打ち込んでいる。テクニックだけでなく、攻守の切り替えなど試合の組み立ても巧みだ」―。そして、「有延の入部によって、卓球部の悲願である『日本卓球リーグ優勝』に一歩近づいた」と期待を膨らませる。卓球部には現在、有延を含めて部員6人が所属。リコーグループの社員として普通に仕事を続けながら、就業時間後や休日に東京都大田区にあるリコーの体育館で練習に励み、汗を流している。

 卓球部が優勝を目指す日本卓球リーグ大会は、日本卓球リーグ実業団連盟に加盟するチームが競い合う団体戦だ。前期と後期の年2回開催。リーグは1部と2部に分かれ、現在リコーが所属する男子1部リーグには強豪8社がしのぎを削る。1部リーグで年間総合順位の上位4チームは、日本一を懸けて「内閣総理大臣杯JTTLファイナル4」に進出する。プロ野球に例えるなら、日本シリーズに相当する。

 今年6月の前期日本卓球リーグ大会では、リコー卓球部は5位になり、昨年後期から順位を一つ上げた。年間総合4位を射程圏内に入れ、初のプレーオフ出場も現実味を帯びてきた。だがその前に、まずは11月の後期リーグで優勝を目指す。それには、有延の右腕フル回転が絶対条件になる。

20170927_02.jpg(写真)筆者

 有延は4歳で直径40ミリの白球と出会い、それが人生の分かれ道となる。兄と一緒に卓球場へ連れていかれ、父親から卓球のイロハをたたき込まれた。小学校に入ると練習も厳しくなり、「何度も何度も泣いた」―。しかしその甲斐もあり、小学校時代に三度、全国大会で3位に輝く。

 有延は小学校を卒業すると親元を離れ、学生卓球界の名門である野田学園に進学。中学・高校と卓球に打ち込み、高校1年で出場したインターハイで全国3位に。傍から見ると素晴らしい成績だが、本人は満足できなかった。「いつか大会で優勝したい!」―。常にこの想いが心の真ん中を占めていた。

 ようやく大願が成就したのは大学時代。明治大学に進学した有延は、1年生で「第10回全日本学生選抜卓球選手権大会」で優勝を果たした。実は試合の3カ月前、練習で右手を骨折し、1カ月間の休養を余儀なくされていた。だがその間に自分の半生を振り返る時間が生まれ、卓球を続けていく覚悟を決めたという。復帰すると、以前にも増して練習に集中できた。まさに怪我の功名だ。

 晴れて学生チャンピオンとなった有延は翌年、「ナショナルチーム候補」に選出された。水谷をはじめとする国内トップ選手とともに練習合宿に参加。それから現在に至るまで、彼らと切磋琢磨してきた。合宿では水谷から強烈な刺激を受け、最大の目標に据える。有延が「どこにボールを打っても、必ず打ち返してくる」と嘆くように、水谷の反射神経やボールに対する執着心は世界最高水準。だからこそ、有延は水谷の背中を死に物狂いで追い掛けてきた。

ナショナルチームのユニフォーム

(写真)筆者

 「卓球は技術勝負ではなくて心理戦。相手との心の読み合いが面白いんです」―。卓球の魅力を尋ねると、有延からこんな答えが返ってきた。卓球の試合では、6ポイント経過するごとに短い休憩がある。その際に有延はタオルで顔を拭いつつ、実は相手の表情をじっくり観察し、その心を必死に読むという。その表情によっては、攻め方を変えることもある。

 有延の得意技は「カウンター」。時速100キロを超える渾身のショットを打ち返してポイントを取れば、相手に心理的にダメージを与えられるからだ。有延はクールな顔の下に、強かな戦術家という別の顔を隠している。

 卓球では日本トップレベルの有延も、社会人としてはまだ一年生。実習生を経て営業部に配属され、リコー営業マンとして仕事の腕も磨き始めた。仕事と卓球の両立は容易でないが、有延は「職場には卓球部のOBも多くて相談しやすい。上司も理解を示してくれている」と話す。長期の合宿で仕事を休む必要もあるが、「現役の時は卓球を頑張れ」と笑顔で送り出してくれる上司には、「いくら感謝してもしきれない」という。

 「二足のわらじ」の最大の課題は練習時間の確保だ。体育館が午後9時に閉まるため、仕事を終えてすぐに始めても平日の練習は2時間が限度。学生時代は4~5時間が普通だったから、効率を上げなくては力が落ちてしまう。有延はそのコツを卓球部の先輩から学び始めた。「先輩は仕事を通じて段取りを組むことに慣れており、練習計画を立てるのがうまい。さすが社会人だと思う」―。つまり、計画を立てる(Plan)、実行する(Do)、その結果を評価する(Check)、改善につなげる(Act)―という仕事のPDCAサイクルを、実業団選手は卓球の練習に導入しているのだ。

 社会人になると、卓球に向かう気持ちに変化は生じたのか。有延にそんな疑問をぶつけると、「応援してくれる方々のためにも、試合に勝たなくてはいけない。そういう使命感が生まれました」―。会社の同期が試合の応援に駆けつけてくれると、ぐっと力が入るという。「勝つことで応援してくれる社員の皆さんを元気にしたい」―。名が示すように、有延大夢には周囲の夢をいつの間にか大きくしてしまう不思議な魅力がある。

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倉浪 弘樹

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※この記事は、2017年9月29日発行のHeadLineに掲載予定です。

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